はじめに
介護の仕事では、利用者とのコミュニケーションが欠かせません。
しかし、コミュニケーションは、ただ上手に会話をすることだけではありません。
その人を知り、相手に合わせ、変化に気づき、敬意を持って関わる。
ときには、言葉を交わさずに寄り添うこともあります。
この記事では、介護におけるコミュニケーションについて、現場での経験をもとに考えていきます。
相手によってコミュニケーションは変わる
利用者は一人ひとり性格や好みが違います。
そのため、声かけの仕方も相手に合わせて変えていく必要があります。
たとえば言葉遣いひとつをとっても、距離感の近い親しみのある話し方を好む方もいれば、接客業のような丁寧な話し方を好まれる方もいます。
また、介護現場では「高齢者には大きな声で話しかける」ということが一般的に行われています。
しかし、聴力がそれほど低下していない方や、比較的若い利用者の中には、大きな声で話しかけられることを嫌がる方もいるでしょう。
声の大きさだけではありません。
話す速さや声のトーン、言葉の選び方、相手との距離感なども、その人に合わせて変えていく必要があります。
私は、こうした違いを相手に合わせて自在に変えられることも、コミュニケーション能力のひとつだと考えています。
「自分が話しやすい方法」で話すのではなく、「相手が受け取りやすい方法」を考える。
それが、介護におけるコミュニケーションでは大切なのではないでしょうか。
言語以外のコミュニケーション手段
コミュニケーションというと、「会話をすること」を思い浮かべるかもしれません。
しかし、コミュニケーションは言葉だけで成り立つものではありません。
表情や声のトーン、視線、身振り手振りなど、言葉以外の情報を使って相手に気持ちを伝えることを「非言語コミュニケーション」といいます。
介護の現場では、こうした言葉以外のコミュニケーションも大切です。
たとえば、利用者の表情がいつもと違うとき、声の大きさや話し方が普段と違うとき。
そこには、言葉だけでは表現されていない気持ちが隠れていることがあります。
利用者の心は、毎日同じではありません。
いつも明るく穏やかに過ごしている人でも、体調や気分によって、落ち込んだり、不安になったりすることがあります。
そんなときは、無理に会話を続ける必要はありません。
ただそばにいて一緒に過ごすことや、そっと手を添えることも、その人に寄り添う大切なコミュニケーションです。
大切なのは、「コミュニケーション=会話」と決めつけないこと。
その人が今どのような状態なのかを知り、その人の気持ちや状況に合わせて、どのような関わり方が必要なのかを考えること。
それも、介護におけるコミュニケーションの大切な役割だと思います。
相手への敬意は忘れない
長く同じ利用者と関わっていると、少しずつ距離が近くなっていきます。
何気ない会話が増えたり、冗談を言い合えるようになったりすることは、信頼関係が築けている証でもあります。
しかし、そんなときこそ忘れてはいけないのが、相手への敬意です。
もちろん、利用者と仲良くなってはいけないということではありません。
親しみを持って接することは、安心して過ごしてもらうためにも大切なことです。
ただし、私たちが関わっているのは、自分より長く人生を歩んできた方々です。
私たちには経験できないような出来事を経験し、さまざまな時代を生きてこられています。
介護の現場では、仕事として「介護する側」と「介護される側」という関係になります。
だからといって、人としての立場まで上下になるわけではありません。
距離が近くなりすぎると、言葉遣いや態度が変わったり、利用者への配慮が薄れたりすることがあります。
そして、その小さな変化がケアの質を下げ、利用者に不快感や不信感を抱かせてしまうこともあります。
私自身もある利用者との距離感が近くなりすぎて言葉遣いが悪くなり、相手に不快な思いをさせてしまった経験があります。
親しみを持ちながらも、相手を敬う気持ちは忘れない。
信頼関係が深くなればなるほど、このことを意識しながらケアにあたりたいものです。
介護職と利用者の間には相性がある
介護職も利用者も、一人の人間です。
人と人に相性があるように、介護職と利用者の間にも相性があります。
基本に沿ったコミュニケーションを意識していても、なかなか受け入れてもらえないことがあります。一方で、技術が十分でなくても、自然に良好な関係を築ける人もいます。
その理由はさまざまです。
・過去に関わった苦手な人と雰囲気が似ている
・自分の孫に似ていて親しみを感じる
・声や話し方が苦手に感じる
このように、介護職の接し方とは別の理由で、関係性が決まることもあります。
うまくいかないときは、自分の声かけや接し方を振り返ることが大切です。しかし、何をしても難しいからといって、必ずしも「自分のコミュニケーションが悪い」と考える必要はありません。
声かけや話題、関わるタイミングを変えてみる。
それでも難しければ、他の職員に対応をお願いすることも一つの方法です。
介護はチームでするものです。
一人で抱える必要はありません。
大切なのは、相性を無理に合わせることではなく、利用者が不快な思いをせず、安心して穏やかに過ごせることです。
「自分が何とかしなければ」と考えすぎず、必要なときは周囲の力を借りる。それも、利用者を大切にするコミュニケーションの一つです。
介護におけるコミュニケーションの本質とは?
ここまで、介護におけるコミュニケーションについて、いくつかの視点から考えてきました。
では、改めて介護におけるコミュニケーションの本質とは、何なのでしょうか。
私は、「その人を知り、変化に気づくこと」だと考えています。
一般的なコミュニケーションというと、相手と上手に話したり、一緒に会話を楽しんだりすることをイメージするかもしれません。
もちろん、それも大切です。
しかし、介護におけるコミュニケーションには、それだけではない目的があります。
利用者の生活歴や趣味、これまでの暮らしを知っておくことで、会話の糸口が見つかります。
そして、自分のことを知ってもらえていると感じることで安心感につながり、信頼関係を築くことにもつながります。
さらに大切なのが、コミュニケーションを通して利用者の変化に気づくことです。
「いつもより口調がゆっくりしている」
「今日は何となく表情がさえない」
「少し滑舌が悪いように感じる」
このような「いつもと違う」という小さな変化から、体調や気持ちの変化に気づけることがあります。
もちろん、こうした変化だけで原因を判断することはできません。
だからこそ、その気づきを大切にし、必要に応じて周囲の職員と共有することが重要です。
そして、その変化も利用者の情報として積み重ねていく。
すると、少しずつその人の特徴や傾向が見えてきます。
知ることで、気づけるようになる。
気づくことで、さらにその人を知ることができる。
その積み重ねによってコミュニケーションが深まり、利用者との信頼関係も強くなっていきます。
コミュニケーションとは、上手に話す技術だけではありません。
その人を知ろうとすること。
変化に気づこうとすること。
そして、その人に合った関わり方を考え続けること。
その積み重ねこそが、介護におけるコミュニケーションなのだと思います。
まとめ
今回は、介護におけるコミュニケーションについて書いてきました。
今回の記事のポイントをまとめます。
・利用者によって、心地よい声かけや距離感は異なる
・表情や声のトーン、身振りなど、言葉以外のコミュニケーションも大切
・親しくなっても、利用者への敬意を忘れない
・介護職と利用者の間には相性があり、すべてを自分の責任だと考える必要はない
・一人で抱え込まず、必要なときは他の職員の力を借りる
・介護におけるコミュニケーションの本質は、「その人を知り、変化に気づくこと」
コミュニケーションに「これが正解」という一つの方法はありません。
その人を知り、相手に合わせ、変化に気づく。 そして、そこからさらにその人を知っていく。
その積み重ねが、利用者との信頼関係を築き、より良いケアにつながっていくのだと思います。
利用者とのより良い関係を築くために、今日の関わりを振り返りながら、一人ひとりに合ったコミュニケーションを考えていきたいものです。
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