認知症ケアで大切なこと|「不穏」という言葉だけで終わらせない 

介護の本質

はじめに

「認知症ケア」

介護の仕事をする上で必ず関わることです。
多くの介護職の方が、認知症ケアについて悩んでいることでしょう。

この記事では、認知症の方と関わるうえで、私が大切だと考えていることを現場での経験を交えながらお伝えします。

認知症とは?

介護保険法で認知症とは、

”アルツハイマー病その他の神経変 性疾患、脳血管疾患その他の疾患(特定の疾患に分類されないものを含み、せん妄、鬱 病その他の厚生労働省令で定める精神疾患を除く。)による後天的な脳の障害により、 日常生活に支障が生じる程度にまで認知機能が低下した状態 ”

と定義されています。

「認知症=物忘れ」と考えられがちですが、それだけではありません。

例えば、記憶することが難しくなる記憶障害、時間や場所がわからなくなる見当識障害、物事を順序立てて行うことが難しくなる実行機能障害などがあります。

また、認知症の方には、不安や妄想、興奮、昼夜逆転などのBPSD(行動・心理症状)が見られることもあります。

ただし、こうした症状はすべての方に同じように現れるわけではありません。

その人の性格や生活歴、体調、環境、周囲の関わり方などによっても変化します。

そのため介護職には、目の前の言動だけを見て「認知症だから」と決めつけるのではなく、「なぜ、このような言動が見られるのだろう?」と考える視点が大切です。

※参考 令和3年4月1日 厚生労働省老健局 認知症施策・地域介護推進課  「介護保険法施行令等の一部を改正する政令等の施行 」をもとに作成 

 → https://www.mhlw.go.jp/content/000764667.pdf

 


まず本人の言葉を受け止める

認知症の方と関わるときに大切なのは、本人の言葉をまず受け止めることです。

例えば、利用者から「家に帰らないといけない」と言われたとします。

このとき、

「ここがあなたの家ですよ」
「今日は帰りませんよ」

と否定してしまうと、本人は「自分のことを分かってもらえない」と感じ、不安や怒りが強くなることがあります。

まずは、

「家に帰りたいんですね」

と、本人の気持ちを受け止めてみましょう。

それだけで安心し、落ち着きを取り戻すこともあります。

ただし、本人の言うことを何でもそのまま受け入れるという意味ではありません。

「なぜ家に帰りたいのだろう?」
「何か不安なことがあるのではないか?」

と考えるためにも、まず本人の言葉を受け止めることが大切です。

否定する前に、まず受け止める。

これは、認知症の方と関わるうえで大切にしたい基本的な姿勢です。


行動の意味を理解する

「不穏」という言葉

認知症の方の症状について話すとき、介護現場でよく聞かれる言葉の一つに「不穏」があります。

利用者がいつもと違って落ち着かないときなどに、「今日は不穏だね」と表現することもあるでしょう。

しかし、私はこの言葉を簡単に使わないようにしています。

なぜなら、「不穏」という言葉で表現してしまうと、そこで考えることを止めてしまうことがあるからです。

「今日は不穏だった」と捉えてしまえば、その行動の理由を深く考えず、「認知症の症状だから」と片付けてしまうことがあります。

しかし、利用者の行動には、私たちが理解できていないだけで、何かしらの理由があるのではないでしょうか。

例えば、

・何かを思い出して、家に帰りたいと思っているのかもしれない

・体調がすぐれないものの、うまく言葉で伝えられないのかもしれない

・何か嬉しいことがあり、いつもより気持ちが高揚しているのかもしれない

これはあくまで一例です。

同じように落ち着かないように見える行動でも、その背景にある理由は利用者によって違います。

「不穏」という言葉を使うこと自体が悪いわけではありません。

だからこそ、そのような行動を目にしたときには、「不穏」という言葉で片付けず、

「なぜ、このような行動をしているのだろう?」

と、まずは、本人の思いや理由を考えることが大切なのではないでしょうか?

→観察力の大切さについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
 介護職に観察力が必要な理由|現役介護士が実例で解説

生活歴を知ることも大事

認知症の症状を目にした際に、その理由を考えるためには、目の前の行動だけを見るのではなく、本人のことを知ることも大切です。

身体状況や病状を把握することはもちろん必要です。

それだけではなく、家族構成や生活歴、これまでどのような生活を送ってきたのかなど、その人の人生を知ることで見えてくるものもあります。

それが、認知症の方を理解し、その人らしいケアにつなげていくために大切なのだと私は考えています。

→生活歴を知ることの大切さはこちらの記事でも解説しています。
入居者が本当に望むこととは?|生活歴から考える利用者主体の介護


認知症になるということ

認知症になることは、そもそも本人にとって不幸なことなのでしょうか。

認知症になることで、これまでできていたことが少しずつ難しくなる場合があります。

軽い物忘れから始まり、場所が分からなくなったり、言葉が出てこなくなったりすることもあります。

症状が進行すれば、異食や不潔行為など、本人や周囲の人にとって対応が難しい行動が見られることもあります。

そして、場合によっては、長年一緒に暮らしてきた家族のことが分からなくなることもあります。

こうした変化は、本人にとって不便や不安につながることがあります。

また、家族にとっても、悲しく感じることがあるでしょう。

しかし、

「認知症になった=その人の人生が不幸になった」

と決めつけてしまうのも、違うのではないでしょうか。

認知症になったからといって、感情や人とのつながりが失われるわけではありません。

楽しいと感じることもあれば、好きなことや嫌いなこともあります。

人と関わることを楽しんだり、安心できる場所で穏やかに過ごしたりすることもあります。

もちろん、認知症になった本人がどのように感じているのか、それは本人にしかわかりません。

だからこそ、「認知症だから仕方がない」と考えるのではなく、

認知症になったあとも、どうすれば本人らしく暮らしていけるのか。

私たち介護職が考えることが大切なのではないでしょうか。

認知症になったことだけで、その人の人生の価値が失われるわけではありません。

「認知症になった後の人生」

その時間を少しでもその人らしく過ごしてもらえるように支えることも、私たち介護職の大切な役割なのだと思います。


きれいごとだけではできない認知症ケア

「本人の気持ちに寄り添う」

認知症ケアにおいて、とても大切な考え方です。

しかし、介護現場では、いつでも教科書通りの対応ができるとは限りません。

認知症の方への対応が難しい理由として、

・何度も同じことを言われる

・説明してもなかなか納得してもらえない

・対応に時間がかかり、業務が進まない

・他の利用者への影響が出る

などがあります。

特に人手不足の現場では、一人の利用者に十分な時間をかけることが難しい場合もあります。

「寄り添いたい」と思っていても、思うように対応できない。

これも介護現場の現実だと思います。

私自身も、認知症の方への対応で感情的になってしまったことがあります。

もちろん、感情的にならず落ち着いて対応することが理想です。

しかし、感情的になったことで状況が良くなったことは、一度もありませんでした。

そのようなときは、

「別の対応をすれば、うまくいったのではないか」

と振り返り、次に同じような場面があったときの対応につなげるようにしてきました。

もちろん、それで上手くいくこともあれば、いかないこともあります。

介護職も人間です。常に完璧な対応ができるわけではありません。

だからこそ、もし感情的になってしまったとしても、その経験をそのまま終わらせない。

自分の対応を振り返り、次のケアにつなげていくことも、認知症ケアでは大切なことなのではないでしょうか。


認知症ケアを学び続ける

認知症ケアには、

「これをすれば必ずうまくいく」

という方法はありません。

認知症の症状や性格、生活歴などは人によって異なり、同じ対応をしても、うまくいく人もいれば、そうでない人もいます。

だからこそ、介護職は認知症ケアについて学び続けることが大切なのだと思います。

学ぶというと、本を読んだり研修を受けたりすることを思い浮かべるかもしれません。

しかし、日々の介護現場にも学ぶ機会はたくさんあります。

・他の介護職がどのように声をかけているのか観察する

・うまくいった対応、いかなかった対応を記録し、後から振り返る

・自分自身の対応を振り返る

・利用者の生活歴を知り、ケアに活かす

こうした積み重ねも、認知症ケアを学ぶ大切な方法です。

そして、学びを継続することも重要です。

認知症の方の状態は常に同じとは限りません。

体調や環境、生活の変化などによって、これまでうまくいっていた対応が通用しなくなることもあります。

だからこそ、

「この方法が正解」と決めつけないこと。

その時々の本人の状態を見ながら、「今の自分にできることは何か」「この人に合う方法はないか」と考え続けることが大切なのだと思います。


まとめ

認知症ケアで大切なのは、目の前の言動だけで判断しないことです。

・本人の言葉や小さな変化を見逃さない

・「なぜこのような言動があるのか」と考える

・否定する前に、まず本人の気持ちを受け止める

・「不穏」とだけ捉えず、その背景にある理由を考える

・完璧な対応を求めすぎず、振り返りを次のケアにつなげる

・一人ひとりに合った認知症ケアを学び続ける

認知症になっても、その人らしさや人生の価値が失われるわけではありません。
だからこそ、本人の思いや変化に目を向けることが大切です。
うまくいかないことがあっても、振り返ることで次のケアにつなげられます。
「認知症だから」と決めつけず、その人を知ろうとする姿勢を大切にしたいものです。
その積み重ねが、その人らしい生活を支える認知症ケアにつながっていくのだと思います。

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